イギリス移住界隈に衝撃が走った2025年5月12日の月曜日でした。
イギリス政府は新たな2025年版移民白書を発表し、今後4年間で純移民数を「大幅に」減少させることを目標に、ビザ要件や雇用主のコスト負担、介護職の採用禁止など、移民政策の大幅な厳格化に踏み切りました。
この背景には、過去最高水準に達している純移民数の抑制や、イギリス社会の多様性と国益のバランスをどう取るかという課題があります。新白書の内容は、今後イギリスでの就労や移住を目指す日本人にも大きな影響を与えるものとなっています。

スターマー首相の「英国での定住は権利ではなく、獲得する特権である。」というXのポストが印象的で、すでに4万いいねを獲得しています。コメント欄は大荒れ。
イギリス移民白書2025年の概要
2025年5月、イギリス政府は新たな移民白書を発表し、純移民数の大幅削減と国境管理の強化を柱とした大規模な移民制度改革に踏み切りました。ビザ制度の乱用及び、混乱する不法移民対策となります。
主なポイントは以下の通りです。
- 熟練労働者ビザ(Skilled Worker)の取得要件厳格化
最低給与や学歴要件の引き上げ、対象職種の縮小など。 - 企業側の費用負担増加
移民技能負担金(Immigration Skills Surcharge)やスポンサー関連費用の大幅値上げ。 - 介護職ビザの新規発給停止
海外からの介護職採用を禁止し、国内人材の活用を優先。 - 英語力要件の引き上げ
長期滞在や永住申請時の英語要件がB2(中上級)レベルに引き上げ。 - 企業に国内労働市場の活用義務
海外人材の採用時に国内人材育成や採用努力が求められる。
これらの改革により、今後4年間で年間10万人の移民減少を目指すと政府は発表しています。

近年、イギリスの移民制度にはさまざまな疑問や議論がありました。その一方で、ブレグジット(EU離脱)やコロナ禍への対応として、移民受け入れを一時的に大幅に緩和した時期もありました。しかし、その結果として移民数が過去最高水準に達したのです。現在は再び移民を抑制しようという「緊縮」の流れへと転換しています。
永住権獲得が難しくなるだけではない「Earned Settlement(アーンド・セトルメント)」モデル
2025年イギリス移民白書で導入が発表された「Earned Settlement(アーンド・セトルメント)」モデルは、永住権(ILR)取得の標準的な期間を従来の5年から10年に延長し、単なる滞在年数だけでなく「イギリス社会や経済への貢献」を重視する新しい仕組みです。
- 標準の永住権申請期間が10年に倍増
ほとんどの就労・長期滞在ビザルートで、永住権(ILR)申請までの必要滞在期間が5年→10年に引き上げられます。 - 「貢献度」による早期申請の可能性
例外的に、イギリス経済や社会への貢献(例:重要インフラ分野での就労、科学・技術・芸術での優れた業績、地域社会でのボランティアや統合への積極的な参加など)をポイント制で評価し、5~7年など短縮ルートでの永住権申請も検討されています。具体的なポイント基準や加点内容は今後のコンサルテーションで決定。 - 家族ルートは5年ルール維持
英国市民の配偶者や子どもなど「Family route」は、従来通り5年で永住権申請が可能です。 - 「Life in the UK」テストや英語力要件も見直し
永住権・市民権取得時の「英国社会・歴史・価値観」テストや英語力要件も、より実践的・統合重視の内容に刷新予定。

「イギリス歴史文化ウンチクパブクイズ」にとどまっている「Life in the UK」テスト内容の改変にはたいへん賛成です笑
2025年移民白書・各ビザごとの影響比較まとめ
今回の移民白書2025を各種AIにかけて、ワーホリ(YMSビザ)・Skilled Worker(就労ビザ)・配偶者ビザ・高度人材ビザ・卒業生ビザに関する変更内容を表でまとめました。
ビザ種類 | 給料要件 | ビザ取得条件 | 英語力条件 | ILR(永住権)までの期間 | その他 |
---|---|---|---|---|---|
ワーホリビザ(YMS) | 変更なし 不要 | 変更なし ・18~30歳 ・日本国籍 ・資金証明(£2,530) ・年間6,000人枠 ・抽選なし・先着順 ・2年間滞在可 | 変更なし 公式要件なし (現地就職や切替時はB2以上推奨) | 変更なし 間接的に影響あり ILR直接不可 (Skilled Worker等に切替後、該当ビザで規定年数滞在、原則10年) | 変更なし 就労・就学ほぼ自由(正規大学進学は不可) |
就労ビザ (Skilled Worker) | 変更あり 年収£38,700以上(または職種ごとのgoing rateの高い方) 一部職種は£30,960以上 | 変更あり ・英国スポンサー企業からの雇用オファー ・RQFレベル6(学士号=大学卒業レベル)以上の職種 ・スポンサーライセンス取得企業 | 変更あり B2(CEFR)=中上級 (2025年からB1→B2に引き上げ) | 変更あり 原則10年 (Earned Settlementモデル導入予定、従来は5年。貢献度による短縮ルートあり。既存保持者は経過措置あり) | 変更あり ・企業側のスポンサー費用・技能負担金等が増額 ・国内労働市場の採用努力義務 ・社会的・経済的貢献によるポイント加算で早期ILRも可 |
配偶者ビザ(Spouse) | 変更あり 年収£29,000以上(2人世帯) | 変更あり ・英国市民または永住権保持者の配偶者/パートナー ・真実性ある関係証明 ・適切な住居 ・資金証明 | 変更あり 初回:A1 延長:A2 ILR申請時:B2(中上級) | 変更なし 5年 (家族ルートは従来どおり5年でILR可) | 変更あり ・成人帯同家族にも英語要件新設(A1→A2→B2) ・子どもがいる場合は収入要件増 ・資金証明・住居要件も必要 |
高度大学人材枠 (High Potential Individual/Global Talent) | 変更なし 不要 | 変更あり ・対象大学(例:東京大学・京都大学など世界トップ大学)卒業(過去5年以内) ・学士/修士/博士号 ・資金証明 ・対象職種が厳格化 | 変更あり B1(中級)以上 | 変更なし 間接的に影響ありILR直接不可 (他のビザへ切替後、規定年数でILR可) | 変更なし ・雇用オファー不要 ・最長2年(博士号は3年)滞在可 ・1回のみ申請可 ・今後対象大学拡大予定 |
卒業生ビザ (Graduate Route) | 変更なし 不要 | 変更なし ・英国大学で学士/修士/博士号取得 ・学生ビザから切替 | 変更なし 卒業時点で大学が定める英語力要件(通常B2以上) | 変更なし 間接的に影響あり ILR直接不可 (Skilled Worker等に切替後、規定年数でILR可) | 変更あり ・学士・修士は18か月(従来2年)、博士号は3年滞在可 ・雇用オファー不要 ・本人は変更ないが、「成人帯同家族(dependant)」に対する英語力要件(A1レベルの導入)を追加導入 ・今後給与要件や発給数制限の導入検討 |
ワーホリビザ(YMS/Youth Mobility Scheme)の変更点と現状
2025年のイギリス移民白書には、ワーホリビザに関する具体的な変更についての記載はありませんでした。
日本人向けのワーキングホリデービザ(YMS)は、2025年度から年間発給枠が1,500名から6,000名へと大幅に拡大され、申請方法も抽選制から先着順に変更されました。これにより、イギリスでのワーキングホリデーがより取得しやすくなり、多くの若者に新たなチャンスが広がっていました
そんな中、就労ビザ切り替え後の永住権までの道のりは、これまでの5年から10年となり、より長い期間イギリスに滞在する必要が出てきました。
- 年間発給枠が6,000名に拡大
2024年から日本人向けYMSビザの定員が1,500名→6,000名に大幅増加。 - 抽選から先着順へ
2025年からは抽選制が廃止され、定員に達するまで随時申請可能に。 - 年齢制限・申請条件
18歳から30歳(申請時点)まで、2年間の滞在が可能。申請時に£2,530以上の資金証明が必要。 - 就労・就学制限
就労はほぼ自由だが、大学・大学院への正規入学は不可。専門学校などは可。 - 英語要件
YMS自体に公式な英語力要件はなし。ただし現地就職やビザ切替には高い英語力が必須。
Skilled Workerビザの主な変更点、現行保持者向けの対応
2025年の移民白書では、Skilled Worker(熟練労働者)ビザの取得条件が大きく見直されました。
最低給与額の大幅な引き上げや学歴要件の厳格化、企業側のコスト増加、国内労働市場優先の義務化など、これまで以上にハードルが高くなっています。
Skilled Workerビザの最低給与・学歴要件
Skilled Workerビザ(就労ビザ)が、今回の白書の発表で一番大きく影響を受けたビザカテゴリになります。永住権への道のりも大きく変わりました。これまでは、Skilled Workerビザの滞在5年で永住権を取得できましたが、今回の変更により、新規申請者は原則10年滞在する必要があります(短縮措置もあり)。アメリカのグリーンカードを彷彿としますね。
- 最低給与基準が£38,700に引き上げ
2025年4月からSkilled Workerビザの給与基準が£38,700(または職種ごとの「going rate」の高い方)に大幅引き上げ。 - 学歴要件がRQFレベル6(学士号=大学卒業レベル)以上に
これまでのRQF3(Aレベル=高校卒業相当)から大学卒業相当に引き上げ。対象職種が大幅に減少。 - 「移民サラリーリスト」廃止
特定職種の給与要件緩和措置が廃止され、原則全職種で新基準が適用。

現時点で、Skilled workerルートで永住権(IDL)獲得を目指している人は、今後の政府発表をよく確認してください。
Skilled Workerビザを発行する企業の負担コスト増
2025年イギリス移民白書では、Skilled Workerビザをはじめとする海外人材の雇用に関して、企業側の負担コストが大幅に引き上げられました。スポンサーライセンス料や技能負担金、証明書発行手数料などの各種費用が増額される一方、企業には「国内労働市場の活用と人材育成を優先する義務」も新たに課されます。
これにより、イギリス国内での採用努力や人材戦略がこれまで以上に重視され、海外人材の採用ハードルが大きく上がることとなります。
- 企業の費用負担が大幅増加
移民技能負担金(Immigration Skills Surcharge)は32%増。中小企業で最大£2,400、大企業で最大£6,600の負担。 - Certificate of Sponsorship(CoS)費用も£239→£525に増額。
- スポンサーライセンス料や申請料も軒並み値上げ。
- 国内労働市場優先の義務
企業は海外採用の前に国内人材の採用・育成努力が義務化。高水準の海外採用には戦略の提出が必要。 - 現行保持者の対応
既存のSkilled Worker保持者には経過措置(transitional arrangement)が設けられる見込み。詳細は今後の法令で確定。

景気のいい企業で、スキル的に外国人採用が必須な会社が、今後どれだけ増えるか、という点にかかってきそうです。
配偶者ビザ(Spouse Visa)の主な変更点
配偶者ビザ(Spouse Visa)についても、最低収入要件や英語力証明などの条件が引き上げられています。家族と共にイギリスで暮らすことを希望する人にとって、今後の申請戦略や注意点を押さえておくことがますます重要となっています。
- 最低収入要件の引き上げ
2024年4月より£18,600→£29,000に引き上げ。 - 英語力要件の段階的引き上げ
初回申請時はA1、延長時はA2、永住権申請時はB2(中上級)に。 - 永住権(ILR)申請までの期間は5年を維持
配偶者ビザ(Spouse Visa)は従来通り5年で永住権申請が可能。 - その他要件
真実性のある関係証明、適切な住居、資金証明など。

移住当初に求められる英語力は高くないですが、地域住民との交流やスムーズな社会生活を促進するべく、英語力の引き上げが求められているようです。
高度大学人材枠ビザの変更点(日本の大学の対象者)
世界のトップ大学卒業生や高度人材向けのビザ制度にも見直しが入りました。Skilled Workerビザの対象が広告卒業程度から大学卒業レベル(RQF6)以上に限定され、日本の大学からは東京大学・京都大学の卒業生のみが「世界のトップ人材」(High Potential Individual Visa)ビザの対象となります。今後のキャリア設計やビザ戦略に直結する最新情報をまとめます。
- Skilled Workerの対象が大学卒業レベル(RQF6)以上に限定
高度人材(highly skilled)は引き続き優遇されるが、対象職種が厳格化。 - 世界トップ大学卒業生向けビザ(High Potential Individual等)
日本からは「東京大学」「京都大学」の卒業生のみが対象。 - Graduate Route(卒業生ビザ)の見直し
滞在可能期間が24か月→18か月に短縮、給与要件や発給数制限の導入が検討中。

トランプ政権下でのアメリカからの高度人材流出を睨んだ対応と思われます。
永住権(ILR)取得までのそれぞれの期間・条件
永住権(ILR)取得までの必要期間や条件も大きく変わりつつあります。各ビザごとに、滞在年数や英語力、その他の要件がどのように変化するのか、最新の情報を整理します。
- Skilled Workerビザ
新規申請者は今後10年ルール導入(短縮措置あり)。現行保持者は経過措置ありとの見込み。 - Spouseビザ
引き続き、5年の連続滞在で申請可。 - YMSビザ
YMS単独では永住権ルートなし。Skilled Worker等に切り替え後、該当ビザで規定年数滞在が必要。(原則10年) - 共通要件
英語力(B2以上)、Life in the UKテスト、犯罪歴・移民法違反なし、連続滞在期間中の不在日数制限(12か月で180日以内)など。Life in the UKテスト内容は、「永住権および市民権取得ルールの全体的な改革の一環」として見直し予定。

一見、配偶者ビザの発行数が増えそうですが、白書では偽装結婚を防ぐための審査を強化することも明記しています。
その他のビザの注意点・今後の見通し
今回の移民白書による制度変更は、今後も段階的に施行・見直しが行われる見通しです。今後予想される追加の法改正などは、最新動向をチェックしておきましょう。
- 介護職ビザの新規発給停止
介護職の海外採用は段階的に廃止。既存保持者は延長・切替可能。 - 留学生・家族ビザの制限強化
Graduate Routeの短縮、家族帯同制限、留学生課税なども検討中。

Brexit & コロナで増えた介護職の新規移民の減少により、NHSサービスの質や、NHSスタッフの雇用環境などへの間接的な影響が気になりますね。留学生への対応の変化も見逃せません。
まとめ
イギリス移民白書2025年は、ビザ取得要件の大幅な厳格化と企業・申請者双方へのコスト増、国内労働市場優先の徹底、英語力要件の引き上げなど、移民政策の転換点となる内容です。
Skilled Workerや配偶者ビザ、留学生・高度人材枠ビザの、及び永住権(IDL)取得までのハードルが大きく上がりました。
今後イギリスでの就労・移住を目指す方は、最新の公式情報や法改正の動向を常に確認し、早めの英語力強化・キャリア戦略が不可欠です。