イギリスで長期滞在や留学、就労を考える方にとって、「NHS(National Health Service)」は非常に重要なキーワードです。NHSはイギリスの公的医療サービスの中核であり、ビザ申請や現地生活に密接に関わります。
本記事では、NHSの基本情報や利用条件、ビザ申請時の手続き、費用、注意点まで、最新情報をもとにわかりやすく解説します。
NHS(National Health Service)とは?

NHS(National Health Service、国民保健サービス)は、イギリス全土で運営されている公的な医療制度です。税金によって運営されており、原則としてイギリスに住む人は医師の診察や病院での治療を無料で受けることができます(一部、処方箋料や歯科治療などは有料)。
NHSはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4地域でそれぞれ独立して運営されており、細かなサービス内容や料金体系は地域によって異なります。また、イギリス国民だけでなく、合法的に滞在する外国人も一定の条件を満たせばNHSを利用することができます。
NHSはイギリス人が誇る国民皆医療システムなのです。
一方、プライベート保険(民間医療)は、診療費が高額になるものの、患者自身が直接専門医を選んで受診でき、待ち時間が短いという利点があります。NHSでは必ずGPを介して診察を受ける必要がありますが、プライベート医療ではGPを介さずに専門医にかかることができる点が大きな違いです。AxaやBupaなどが提供しています。
NHSの利用条件と対象者

イギリスでNHSの医療サービスを利用できるのは、原則として「通常の居住者(Ordinary resident)」と認定された人です。外国人でも、6か月以上の長期滞在ビザ(就労、留学、家族帯同など)を取得している場合、多くはNHSのサービスを受けることができます。なお、ビジタービザ(短期滞在)は対象外です。
ビザ申請時の「Immigration Health Surcharge(IHS)」とは

イギリスで6か月以上滞在する場合、ビザ申請時に「Immigration Health Surcharge(IHS)」と呼ばれる医療追加料金の支払いが義務付けられています。このIHSを支払うことで、NHSの医療サービスを利用できるようになります。
2024年2月以降、IHSは年間£1,035(約19万円前後)に引き上げられています。
ビザの有効期間分を一括前払いする必要があり、支払わないとビザが発給されません。移民が増えすぎた現在のイギリスでは、この金額は毎年増加傾向にあります。
一部のビジタービザ(短期滞在)や医療従事者、特定の家族ビザなどは免除・減額対象となります。
IHSの金額はビザの種類や滞在期間によって異なり、イギリス政府の公式サイトでシミュレーションできます。
2025年4月時点での「Immigration Health Surcharge(IHS)」コストは、ビザの種類によって以下のように異なります。
ビザ種類 | 年間IHS料金 | 2年分合計 | 3年分合計 | 備考 |
---|---|---|---|---|
Skilled Worker | £1,035 | £2,070 | £3,105 | 1年ごとに加算 |
YMS | £776 | £1,552 | – | 通常2年ビザ |
永住権(ILR) | 不要 | – | – | IHS支払い義務なし |
NHSで受けられる医療サービス

NHSに登録すると、以下のような医療サービスを原則無料で受けられます(一部有料あり)。
- GP(General Practitioner:総合診療医)による診察
- 病院での治療・入院
- 緊急医療(救急車の利用や救急外来)
- 妊娠・出産に関する医療
- 家族計画サービス
- 特定の感染症診断・治療
- 新型コロナウイルスワクチン接種(年齢など条件あり)
ただし、以下のサービスは一部自己負担が発生します。
- 処方箋料(イングランドでは1回あたり定額、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドは無料)
- 歯科治療(8割程度が自己負担の場合も)
- 眼科検診やメガネ・コンタクトレンズ
- 一部の予防接種や健康診断
NHS利用時の注意点・よくある質問

GP登録(かかりつけ医)
イギリスでNHSを利用するには、まず自宅近くのGP(General Practitioner)に登録する必要があります。登録後は、どんな症状でもまずGPを受診し、必要に応じて専門医や病院に紹介される仕組みです。いきなり専門医にかかることはできません(救急医療を除く)。
引っ越したときも、近くのGPに登録を移すと楽ですよ!
NHS番号(NHS Number)
NHSに登録すると、個人ごとに「NHS番号」が割り当てられます。診察や処方など、あらゆる医療サービスでこの番号が必要となるため、必ず控えておきましょう。
必要書類
- パスポート
- ビザ(BRPカードなど)
- 住所証明(公共料金の請求書や賃貸契約書など)
留学生・就労者の注意点
6か月未満の短期滞在ビザの場合、NHSは利用できません。プライベート医療機関の利用は高額になるため、必ず海外旅行保険の加入をおすすめします。
NHSは混雑していることが多く、診察までに時間がかかる場合もあります。緊急時以外は早めの予約・相談を心がけてください。
NHS利用時のよくある質問
- QNHSを利用するにはどんなビザが必要?
- A
6か月以上の長期滞在ビザ(就労、留学、家族帯同など)が必要です。短期ビザ(ビジタービザ)は対象外です。
- QIHS(医療追加料金)はいくら?どうやって払う?
- A
2024年2月以降、年間£1,035です。ビザ申請時にオンラインで一括支払いします。
- QNHSで受けられない医療は?
- A
歯科、眼科、処方薬、予防接種など一部サービスは有料です。詳細は地域のNHS公式サイトで確認してください。
- QNHS利用にあたっての注意点は?
- A
GP登録が必須、混雑や待ち時間が長い場合がある、必要書類の準備、海外旅行保険の併用などが挙げられます。
- Qプライベート保険の医者のほうが質は良い?
- A
イギリスでは、プライベート保険(民間医療)を利用した場合とNHS(国民保健サービス)を利用した場合で、医師の質そのものに大きな違いはありません。多くの医師はNHSとプライベートの両方で診療を行っており、知識や経験、専門性は同じレベルです。
プライベート医療の主なメリットは、待ち時間の短縮や予約の柔軟性、個室利用や快適な施設、幅広い治療オプションへのアクセスなど、サービス面にあります。また、迅速な診断や治療、よりリラックスできる環境を求める場合に選ばれることが多いです。多くの日本人向けの専任医師による診察も、プライベート保険でカバーされます。
一方で、緊急医療や慢性疾患の長期管理についてはNHSが優れており、プライベート医療は主に急性疾患や計画的な治療に向いています。
まとめ:イギリスで安心して医療を受けるために
イギリスのNHSは、税金によって支えられる世界有数の公的医療制度です。ビザ申請時のIHS支払いをはじめ、GP登録や必要書類の準備など、手続きやルールをしっかり理解しておくことが、現地で安心して医療を受ける第一歩となります。NHSの仕組みや利用条件、民間医療との違いを押さえ、健康で充実したイギリス生活を送りましょう。